善意で舗装された道をゆく

舗装された道はとても歩きやすい どこに続いているのかは知らない

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お願いだから電話をかけてこないでほしい

電話がかかってくる事が苦痛でしかたがない。
電話の呼び出しバイブがテーブルを打ち地鳴りのように鳴り響く度に寿命が縮まる気がする。

電話の呼び出しバイブはすなわち、 “いまから数十分か数時間のあいだ貴方の時間を拘束し、くだらない話で身心を疲労させるかもしれません、心の準備はいいですか” の合図であり、
または、 “ちょっと無茶な要件を少ない金銭で依頼するけどどうせ断れないだろうからしっかりやってね”の合図である。
テーブル上の地響きはさながら
地獄の薄ら笑いの悪魔が軽快に吹き鳴らすおめでとうファンファーレのようであり、それを耳にした俺の表情は一瞬にして曇り脂汗と動悸が止まらなくなる。

しかし。それを受けない事には俺は飯が食えない。だからこそ辛い。出たくない。出ればまた俺は自分の価値に値札を付けられる市場の豚と同じ立場に置かれる。

交渉ができるように見せかけてそんなことできるわけがないんだ。めんどくさいやつだと思われたら終わりだ。あっちに依頼した方が安いと思われた時点で終わりだ。またあんな条件で受けなくてはならないのか。自分に突出した才能が無いばっかりに。


電話をかけてこないでほしい。電話を受ける度に自分の価値の低さを確認させられる。
でも仕事をしないと生きていけないから電話をかけてきてほしい。俺に仕事を依頼してほしい。俺の能力を認めてほしい。俺の才能を評価してほしい。
でもできるだけ電話をかけてこないでほしい。